座り込みや階段で太ももの裏に激痛――股関節と足元から原因を探った60代女性の症例
数か月続く、原因の分からない太ももの裏の痛み
こんにちは、矢吹です!
今回ご紹介するのは、数か月前から太ももの裏側に痛みが続いていた60代の女性です。
特に困っていたのが、床に座り込む動作と、階段の上り下りでした。
身体を少し低くしただけでも、太ももの裏にズキッと強い痛みが走る。
「何か筋を痛めたんでしょうか。でも、これといった原因が思い当たらないんです」と話されていました。
原因が分からない痛みが何か月も続くと、不安になりますよね。
階段を見るだけで身構えたり、また痛むかもしれないと思って、しゃがむ動作そのものを避けたりするようになります。
まずは、どの場所が痛いかだけではなく、どの動作で痛みが出るのかを細かく確認しました。
普通に立っているときは、それほど強い痛みはありません。
歩くことも、まったくできないわけではありませんでした。
ところが、膝と股関節を少し曲げて、いわゆる中腰の姿勢になると痛みが強くなります。
「この高さが一番痛いです」
そう言いながら、途中で動きを止められました。
痛い場所だけを見ていると、太ももの裏側の筋肉を痛めているように感じます。
でも、身体を動かしたときの姿勢を見ていると、股関節の使い方に少し特徴がありました。
股関節や太ももの痛みには、筋肉や腱、関節、腰からの影響など複数の原因があり、痛む場所だけで原因を決めることはできません。動作や歩行、階段、スクワットなどを確認しながら、症状の出方を見分けることが大切です。
出典:Hospital for Special Surgery「Hip Pain Causes, Conditions and Treatments」
中腰になると、股関節が内側へ入っていました
中腰の動作を横からだけでなく、正面からも確認しました。
すると、身体を下げるときに股関節が内転・内旋し、膝も内側へ入りやすくなっていました。
簡単に言うと、しゃがむときに脚全体が内側へ巻き込まれるような動きです。
この状態では、お尻の筋肉や太ももの前側の筋肉が十分に働かず、太ももの裏側が頑張りすぎている可能性があると考えました。
もちろん、見た目だけで「これが原因です」と決めつけることはできません。
そこで、股関節の位置を少し変えて、同じ中腰の動作をしてもらいました。
足を少し開き、つま先と膝を軽く外側へ向けます。
股関節を外転・外旋方向へ保ちながら、ゆっくり身体を下げてもらいました。
すると、ご本人が途中で動きを止めて、驚いた顔をされました。
「えっ、痛くないです。さっきまで、あんなに痛かったのに」
同じように中腰になっているのに、股関節と膝の向きを少し変えただけで、太ももの裏の強い痛みがほとんど出なかったんです。
これ、めっちゃ大事な変化です。
太ももの裏そのものが大きく傷んでいるのであれば、股関節の向きを少し変えただけで、ここまで痛みが変化しない場合もあります。
今回の動作確認から、痛みが出ている太ももの裏だけでなく、股関節の位置や臀部の筋肉の使い方が症状に関係している可能性が高いと考えました。
スクワットでは、足裏へ均等に体重を乗せ、股関節を後ろへ引きながら、膝と足の向きをそろえて動くことが重要です。また、立ち上がるときには臀部の筋肉を働かせることが勧められています。
出典:Hospital for Special Surgery「Back Pain After Squats? Here’s How to Do Them Right」
股関節周囲の緊張を整え、使えていない筋肉を働かせる施術へ
動作確認の結果を踏まえ、太ももの裏だけを集中的に揉むような施術にはしませんでした。
痛みが出ている場所だけを触っても、股関節が内側へ入る動きが変わらなければ、同じ負担が繰り返される可能性があるからです。
まず、股関節を内転・内旋方向へ引っ張りやすい筋肉や、過度に緊張していた股関節周囲の筋肉を確認しました。
そのうえで、筋肉の緊張をやわらげる目的で鍼施術と超音波治療を行いました。
ただ緩めるだけではありません。
今回のように、お尻や太ももの前側へうまく力が入っていない場合、固いところを緩めただけでは動きが元へ戻ってしまうことがあります。
そこで、臀部と太ももの前側の筋肉へ力が入りやすくなるように、神経と筋肉の働きを促す電気治療も行いました。
施術中にも、実際に脚へ力を入れてもらいます。
「ここに力を入れてください」と言うだけでは、なかなか分かりにくいんですよね。
今まであまり使えていなかった場所ほど、ご本人は力の入れ方が分かりません。
電気刺激を使いながら、「今動いているのが、お尻のこの筋肉です」と確認してもらいました。
さらに手技では、股関節周囲の筋肉と関節の動きを確認しながら、無理のない範囲で可動域を広げていきました。
施術後、もう一度中腰の動作をしてもらいます。
すると、来院時に出ていた激痛は、ほとんど感じなくなっていました。
「あれだけ痛かったのに、不思議ですね」
そう言って何度か動きを確かめておられました。
一回で強い痛みが軽くなったのは良い変化です。
ただし、軽い痛みや違和感は残っていました。
一度楽になったからといって、股関節の使い方や筋力まで、すべて一回で変わったわけではありません。
そこを焦らず見ていくのが大切です。
股関節の痛みや動作時の症状には、股関節周囲の筋力低下や柔軟性の問題が関係する場合があります。身体の動きを確認し、その人に合わせて筋力と動作を改善していくことが重要です。
出典:Hospital for Special Surgery「When to See a Physical Therapist for Hip Pain」
激痛は軽くなったものの、わずかな違和感が残りました
初回の施術後、もう一度、中腰の動作や階段を想定した動きを確認しました。
来院時に出ていた強い痛みはなくなり、ご本人も「さっきの激痛は何やったんやろう」と驚かれていました。
ただ、完全に何も感じないわけではありません。
強い痛みはなくなったものの、太ももの裏側に軽い痛みや、何となく気になる違和感が残っていました。
ここで「痛みが減ったから、もう大丈夫です」と終わらせるのは少し早いと考えました。
数か月続いていた身体の使い方が、施術を一回受けただけで完全に定着するとは限らないからです。
そこで、股関節周囲の筋緊張を整えながら、臀部と太ももの前側へ力が入りやすくなるよう、同じ方向性で二回目、三回目の施術を行いました。
施術のたびに中腰の動作を確認すると、最初のような激痛は出ません。
階段の上り下りも、以前よりずいぶん楽になっていました。
それでも、ご本人からは「痛いというほどではないんですけど、まだ少し変な感じが残るんです」と言われました。
この“少し変な感じ”が大事なんです。
強い痛みが取れたことだけを見れば、股関節への施術は間違っていなかったと考えられます。
でも、違和感が残るということは、まだ確認できていない負担があるかもしれません。
股関節の動きをもう一度確認し、立ち方や足の向き、足裏への体重のかかり方まで見直しました。
すると、股関節だけではなく、足元から身体のバランスが崩れている可能性が気になりました。
ここで股関節ばかりを追いかけても、同じところをぐるぐる回ってしまいます。
原因を一つに決めつけず、痛みの変化を見ながら次の可能性を探す。
地味ですが、こういう確認がめっちゃ大切なんです。
股関節周囲の症状では、痛みの出る動作や歩き方、筋力、関節の動きなどを確認し、状態に合わせて運動や施術内容を調整していくことが重要です。
出典:Hospital for Special Surgery「When to See a Physical Therapist for Hip Pain」
足元を確認し、インソールを試していただきました
足元を確認すると、以前から外反母趾に悩んでおられ、親指の付け根周辺にも痛みがあることが分かりました。
外反母趾があると、足の親指がほかの指の方向へ傾き、親指の付け根が靴へ当たったり、歩くときに痛みが出たりすることがあります。
「足の痛みは前からなので、太ももとは関係ないと思っていました」と話されていました。
でも、身体は股関節から上だけで立っているわけではありません。
足裏が床に接し、その上に膝、股関節、骨盤、背骨が積み重なっています。
足の親指へ体重をかけにくかったり、足裏の一部へ負担が偏ったりすると、その影響を補うために、膝や股関節の使い方が変わることがあります。
そこで、当院で扱っているインソールを一度試していただきました。
靴の中へインソールを入れて、立つ、歩く、中腰になるという動作を、もう一度確認します。
すると、ご本人から「太ももの感じが全然違います。あの違和感がほとんどないです」と言っていただきました。
股関節へ直接触っていないのに、足元を変えることで太ももの感覚が変わったんです。
これは、足部の状態が立ち方や股関節の使い方に影響していた可能性を考える、大きな手がかりになりました。
もちろん、インソールを入れれば、どんな痛みでもすぐに治るということではありません。
足の形、靴の状態、歩き方、筋力などによって、合うものや感じ方は変わります。
試したときに楽だったからといって、いきなり長時間使うのではなく、身体の反応を見ながら少しずつ使用時間を増やしてもらいました。
インソールなどの装具は、足を支えたり、歩行時にかかる圧力を分散したりする目的で使われます。
外反母趾についても、ゆとりのある靴やパッド、インソールによって圧迫や症状を軽くできる場合がありますが、足の変形自体を元通りにするものではありません。:contentReference[oaicite:0]{index=0}
出典:Mayo Clinic「Bunions:Diagnosis and treatment」
太ももの痛みだけでなく、親指周辺の痛みも気にならなくなりました
インソールを使い始めて、すぐに太ももの裏側の違和感はほとんど気にならなくなりました。
ただ、外反母趾による親指周辺の痛みは、その場ですぐになくなったわけではありません。
長い間続いていた足の負担ですから、そこは焦らず経過を見ることにしました。
インソールを使用しながら約一か月が経過した頃、来院されたご本人から、こんな言葉がありました。
「そういえば最近、親指のところも気にならなくなっています」
太ももの痛みを相談するために来院された方が、結果的に以前から悩んでいた足の痛みも楽になったと喜んでくださいました。
今回の症状では、痛みが出ていたのは太ももの裏側です。
ところが、動きを細かく確認すると、股関節が内側へ入り、お尻や太ももの前側がうまく働いていませんでした。
さらに、股関節への施術で強い痛みが減っても違和感が残ったため、足元まで確認しました。
つまり、太ももの裏側だけを施術していても、今回の問題は解決しにくかった可能性があります。
痛いところが、必ずしもすべての元凶とは限りません。
足は身体を支える土台です。
その上に膝や股関節、骨盤が乗っているため、足元の状態が変われば、身体全体の使い方も変化します。
反対に、股関節の動きが悪ければ、足へ余計な負担がかかる場合もあります。
どちらか一方だけではなく、身体全体をつなげて見ることが大切なんです。
外反母趾では、親指の付け根の突出や腫れ、痛み、親指の動かしにくさなどが起こり、歩行へ影響する場合があります。
親指や足の痛みが続く、歩きにくい、靴が合わないといった場合には、我慢せず医療機関や足の専門家へ相談することも大切です。:contentReference[oaicite:1]{index=1}
「太ももが痛いから、太ももが悪いんやろう」
そう考えてしまうのは自然です。
でも、実際には股関節や足部など、少し離れた場所が関係していることがあります。
何が原因か分からない痛みや、施術を受けても同じ症状を繰り返している方は、一度ご相談ください。
痛い場所だけを見るのではなく、立ち方や歩き方、股関節、足元まで確認しながら、その方に合った方法を一緒に考えていきます。





