四十肩・五十肩(肩関節周囲炎)とは
1. 五十肩とは何か
五十肩とは、肩の関節が痛くなり、腕が上がらなくなったり、動かせる範囲が狭くなったりする病気です。正式な医学名は「肩関節周囲炎(かたかんせつしゅういえん)」または「癒着性関節包炎(ゆちゃくせいかんせつほうえん:肩の関節を包む袋が炎症を起こして縮んでしまう状態)」と言います。英語では「Frozen Shoulder(フローズンショルダー:凍りついた肩)」とも呼ばれており、まさに肩が凍りついたように動かなくなる状態を表しています。
病名に「五十」とついている通り、40代〜60代に最も多く発症します。特に50代での発症が多いことからこの名前がついていますが、40代でも60代でもかかることがありますし、まれに30代や70代でも起こります。日本では肩の痛みで整形外科を受診する患者さんの中でも特に多い病気の一つで、生涯で約2〜5%の人が経験すると言われています。
「なんとなく肩が重い」「腕を上げると痛い」という軽い症状から始まり、気づいたら服を着ることも、髪を洗うことも、後ろのファスナーを閉めることもできなくなっていた——という経験をした方も多いのではないでしょうか。五十肩はそのくらい、日常生活に大きな影響を与える病気です。
出典:https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/frozen-shoulder/symptoms-causes/syc-20372684
2. なぜ起こるのか(原因)
五十肩がなぜ起こるのか、実はまだ完全には解明されていません。しかし現在の医学的な研究から、いくつかの重要なことがわかっています。
① 関節包(かんせつほう)の炎症と収縮 肩の関節は「関節包」と呼ばれる柔らかい袋に包まれています。この袋は通常は柔軟で、腕をさまざまな方向に動かすための余裕があります。ところが五十肩になると、この袋に炎症が起き、袋が分厚く硬くなり、縮んでしまいます。縮んだ袋は腕の動きを制限するため、「腕が上がらない・回せない」という状態になるのです。
② コラーゲンの異常な増殖 炎症が起きた関節包では、コラーゲン(こらーげん:体の組織を作るタンパク質の一種)が異常な形で増えていくことがわかっています。本来はしなやかであるべき組織が、硬く厚くなっていく現象です。これが肩の動きをさらに制限します。
③ リスクを高める要因 五十肩になりやすい人には特徴があります。糖尿病(とうにょうびょう)の方は特に五十肩になりやすく、一般の人の2〜4倍のリスクがあると言われています。甲状腺疾患(こうじょうせんしっかん:甲状腺という首の器官の病気)がある方、心臓・肺の手術後の方、長期間腕を動かさなかった方(骨折後など)もリスクが高いとされています。
④ 原因不明のケースも多い 「何か特別なことをしたわけでもないのに気づいたら痛かった」というケースも非常に多いです。これを「特発性(とくはつせい:原因が特定できないこと)」と言います。
出典:https://www.clevelandclinic.org/health/diseases/14535-frozen-shoulder
3. どんな症状が出るのか
五十肩の症状は「ある日突然」ではなく、段階を踏んでゆっくりと進んでいくことが多いです。主な症状を一つずつ丁寧に見ていきましょう。
① 肩の痛み 最初に現れる症状は肩の痛みです。肩の外側や前側に鈍い痛み(にぶいいたみ:じわじわとした重い感じの痛み)が出始めます。最初は「疲れかな」と感じる程度ですが、徐々に強くなっていきます。特に腕を真横や前に上げようとしたとき、後ろに回そうとしたときに鋭い痛みが走ります。
② 夜間痛(やかんつう:夜に痛みが強くなること) 五十肩の特徴的な症状の一つが「夜間痛」です。寝ているときに肩が痛くなり、目が覚めてしまうことがあります。特に患側(かんそく:痛い方の肩)を下にして横になったときに激しく痛む方が多いです。睡眠が十分に取れなくなり、生活の質(クオリティ)が大きく低下します。
③ 腕の可動域(かどういき:動かせる範囲)の制限 徐々に腕を動かせる範囲が狭くなっていきます。「髪を洗おうとしたら腕が上がらない」「後ろのファスナーが閉められない」「棚の上のものが取れない」「コートを着るときに腕を通せない」といった具体的な困りごとが出てきます。
④ 筋肉の萎縮(いしゅく:筋肉が細くなること) 痛みのために腕を使わなくなると、肩の周りの筋肉が少しずつ細く弱くなっていきます。これをそのまま放置すると回復に余計な時間がかかります。
出典:https://www.hopkinsmedicine.org/health/conditions-and-diseases/frozen-shoulder
4. 肩の中で何が起きているのか
五十肩を深く理解するためには、肩の中で何が段階的に起きているかを追っていくことが大切です。
ステップ①:炎症期(えんしょうき)最初の3〜9ヶ月
肩の関節包に炎症が起き始めます。この時期は「とにかく痛い」という状態です。安静にしていても痛み、夜間痛も強く出ます。腕を動かすと鋭い痛みが走りますが、まだ動かせる範囲はそこまで狭くなっていないことが多いです。
この時期に無理に腕を動かすと炎症が強まり、症状を悪化させることがあります。
ステップ②:拘縮期(こうしゅくき)6ヶ月〜1年半
炎症が落ち着いてくる代わりに、関節包がどんどん硬く縮んでいく時期です。痛みは少し落ち着いてくる場合もありますが、腕の動きがどんどん制限されていきます。「凍りついた肩(Frozen Shoulder)」という表現がまさにこの状態を指しています。
関節包が縮んでいるため、腕を上げようとしても途中で「つっかえた」ような感覚があり、それ以上は上がりません。
ステップ③:回復期(かいふくき)1年〜3年
時間をかけて関節包が少しずつ柔軟性(じゅうなんせい:やわらかさ)を取り戻し、腕の動ける範囲が広がっていきます。痛みも徐々に減っていきます。ただし「完全に元通り」になるまでには非常に長い時間がかかることがあり、一部の方では軽度の動きの制限が残ることもあります。
出典:https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/frozen-shoulder/symptoms-causes/syc-20372684
5. 治療方法
五十肩の治療の基本は「炎症を抑えながら、肩の柔軟性を回復させること」です。症状の時期(炎症期・拘縮期・回復期)によって、適切な治療が変わってきます。
① 痛み止めと抗炎症薬 炎症が強い時期には、炎症を抑えて痛みを和らげる薬(NSAIDs)が使われます。痛みを和らげることで睡眠が改善され、日常生活の質が保たれます。医師の指示に従って使用することが大切です。
② ステロイド注射 関節の中や周囲に炎症を強力に抑えるステロイド薬を直接注射する治療です。特に炎症期の強い痛みや夜間痛に対して非常に効果的です。一時的な痛みの軽減だけでなく、その後のリハビリをしやすくする目的でも使われます。
出典:https://www.clevelandclinic.org/health/diseases/14535-frozen-shoulder
③ リハビリテーション(運動療法) 拘縮期・回復期には、理学療法士(りがくりょうほうし:体の動きを専門に回復させる資格を持つ人)のもとでストレッチや関節を動かす練習を行います。硬くなった関節包を少しずつ伸ばし、動ける範囲を広げていきます。
毎日のセルフストレッチも非常に重要です。「振り子運動(ふりこうんどう)」と呼ばれる、腕の力を抜いてぶらぶらと揺らす運動や、壁を使って腕を少しずつ上に滑らせていく「ウォールウォーク」などが家でもできる代表的な運動です。
④ サイレントマニピュレーション(非観血的授動術) 最近流行りだした治療法です。限られた整形外科のみ行っております。麻酔(ますい:痛みを感じなくする薬)をかけた状態で、医師が肩を強制的に動かして縮んだ関節包を広げる治療法です。即効性(そっこうせい:すぐに効果が出ること)がありますが、すべての患者さんに適用できるわけではありません。
⑤ 手術 他の治療で効果が得られない場合に、関節鏡(かんせつきょう:関節の中を小さなカメラで見ながら行う手術)を使って縮んだ関節包を切り広げる手術が行われることがあります。ただし五十肩で手術が必要になるケースはほぼありません。
出典:https://www.hopkinsmedicine.org/health/conditions-and-diseases/frozen-shoulder
6. 日常生活での変化と工夫
五十肩になると、日常生活のさまざまな場面で困りごとが生まれます。具体的な場面ごとに工夫を見ていきましょう。
着替えるとき 患側(痛い方の肩)から先に袖を通すことが基本です。脱ぐときは健側(元気な方の肩)から先に脱ぎます。前開きのシャツやボタンの大きい服を選ぶと楽になります。
髪を洗うとき・乾かすとき ドライヤーを持つ腕を変えたり、くしをより長いものにしたりすることで負担が減ります。洗髪は美容院でシャンプーしてもらうことも一つの手です。
睡眠のとき 痛い方の肩を下にして寝ると夜間痛が起こりやすいです。健側を下にして横向きになるか、仰向けで肘の下に薄いクッションを置いて腕を少し持ち上げた姿勢にすると楽になる方が多いです。
仕事・デスクワーク 長時間同じ姿勢で肩が緊張した状態を続けないことが大切です。1時間に一度は立ち上がり、肩甲骨(けんこうこつ:背中の上にある三角形の骨)をぐるぐると回すなど、軽く動かしましょう。
運転するとき ハンドルを両手で持つことが難しい場合があります。症状が強い時期は長距離運転を避け、必要であれば家族に運転を頼みましょう。
出典:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK482446/
7. どれくらいで治るのか
五十肩は「放っておいても自然に治る」と言われることがありますが、それは半分正解で半分間違いです。
確かに多くの場合、1年半〜3年という時間をかけて自然に回復していきます。しかし「何もしなくて完全に元通りになる」かというと、そうでない場合も少なくありません。研究によると、適切な治療を受けなかった場合、約40〜50%の方に軽度〜中等度の動きの制限や痛みが長期的に残ると報告されています。
また「3年待てば治る」という考え方は、その間の生活の質の低下(睡眠障害・仕事への支障・精神的ストレス)を考えると現実的ではありません。早めに整形外科を受診して適切な治療を受けることが、回復を早め、後遺症(こういしょう:病気が治った後に残る障害)を最小限にするために重要です。
出典:https://www.clevelandclinic.org/health/diseases/14535-frozen-shoulder
8. 見逃してはいけない病気との違い
肩の痛みや動かしにくさは、五十肩以外の原因でも起こります。自己判断は危険ですので、必ず整形外科で診断を受けましょう。
① 腱板断裂(けんばんだんれつ) 腱板(けんばん)とは、肩の関節を安定させる4つの筋肉とその腱(けん:筋肉と骨をつなぐ丈夫なひも)の集まりです。これが部分的あるいは完全に切れた状態が腱板断裂です。五十肩と似た症状が出ますが、腕を上げる力が著しく低下する・特定の角度でだけ痛むといった特徴があります。MRI検査で確認できます。
② 石灰沈着性腱板炎(せっかいちんちゃくせいけんばんえん) 腱板の中にカルシウム(石灰:せっかい)が溜まって炎症を起こす病気です。突然の激しい肩の痛みが特徴で、五十肩よりも急激に症状が出ます。レントゲンで白い塊が確認できます。
③ 頸椎症(けいついしょう)や頸椎椎間板ヘルニア 首の骨(頸椎:けいつい)の異常が原因で、肩・腕・手にかけて痛みやしびれが出ることがあります。首を動かしたときに症状が変わる、手や指にしびれがあるといった場合は頸椎の病気の可能性があります。
④ 肩関節の骨折や脱臼(だっきゅう) 転倒や事故のあとに急激に肩が痛くなった場合は骨折や脱臼の可能性があります。
出典:https://www.hopkinsmedicine.org/health/conditions-and-diseases/frozen-shoulder
9. 再発・予防のために
一度五十肩になった方の約10〜20%は反対側の肩にも発症すると言われています。また同じ肩での再発は比較的少ないとされますが、日ごろのケアが大切です。
肩を動かし続けることが最大の予防です。腕を使わない生活が続くと、関節包が硬くなりやすくなります。毎日少しでも肩をぐるぐると回し、腕を上げる動作をすることが予防につながります。
糖尿病の管理も重要です。糖尿病がある方は血糖値(けっとうち:血液の中の糖の量)のコントロールをしっかり行うことが五十肩の予防にもつながります。
骨折や怪我のあとのリハビリを怠らないことも大切です。骨折などで腕を動かせない期間が続いた後は、早めにリハビリを開始して関節が固まらないようにすることが重要です。
出典:https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/frozen-shoulder/symptoms-causes/syc-20372684
10. まとめ
五十肩は40〜60代に多い、肩の関節包が炎症を起こして縮んでしまう病気です。「凍りついた肩」という英語名が示す通り、徐々に肩が動かなくなり、日常生活に大きな支障をきたします。
病気には「炎症期・拘縮期・回復期」という3つの段階があり、それぞれの段階に合った治療が大切です。自然に回復することもありますが、1年半〜3年という長い時間がかかるうえ、適切な治療なしでは動きの制限が残ることもあります。
「肩が痛い」「腕が上がりにくい」と感じたら、放置せずに早めに整形外科を受診することをお勧めします。早い段階から適切な治療とリハビリを始めることが、回復を早める最善の方法です。
夜間痛や腕のしびれ・力の入らなさが伴う場合は、腱板断裂や頸椎の病気など別の疾患が隠れている可能性もあります。自己判断せず、専門医(せんもんい)の診断を受けることが何より大切です。
