80代男性・慢性腰痛|腰を触らずに腰痛が改善した症例
こんにちは、山田です。
今回ご紹介するのは、80代の男性患者様の症例です。主訴は慢性腰痛ですが、この方の施術を通じて私自身が改めて体の奥深さを実感した、とても印象的なケースでした。
この患者様の背景から説明します。数年前に腰椎骨折の既往歴があり、3年前には肝臓癌を患われましたが、現在は完治されています。ただ、その影響もあってか体全体の状態はかなり複雑な状態でした。
日常生活は、家の中での移動も歩行器を使っておられます。日中は食事などの時間以外、ほとんどベッドの上で過ごされている状態です。寝ている時間が長くなると、筋肉はどんどん硬くなり、関節の動きも悪くなっていきます。80代という年齢に加えて、この生活スタイルが体全体に大きな影響を与えていました。
腰が痛い。でも、この方の体を触って感じたのは「腰だけの問題ではない」ということでした。

腰を触る前に気づいた「本当の問題」
実際に体を確認してみると、気になる部分がいくつか見つかりました。
まず股関節の可動域がかなり制限されていました。股関節は体の中でも特に重要な関節で、歩行・立ち上がり・寝返りなど、ほぼすべての動作に関わっています。この股関節が硬くなっていると、その負担がそのまま腰に集中してしまいます。
次に腹部と横隔膜がとても硬い状態でした。横隔膜とは、胸とお腹の間にある筋肉のことです。肋骨の下あたりにある、呼吸のたびに上下に動く大きな筋肉です。この横隔膜が硬くなると、呼吸が浅くなり、腹部全体の動きが制限されます。
そして腹部を触ると、最初は痛がっておられました。お腹を触られて痛みを感じるというのは、腹部の筋肉や内臓周囲の組織が相当硬くなっているサインです。
腰椎骨折の既往・長期間のベッド生活・肝臓癌の既往。これらの要因が重なり、股関節・腹部・横隔膜という腰の「周辺」がすべて固まっていた状態でした。
こうした状態を見たとき、「まず腰よりも股関節と腹部周辺を整える方が先だ」と判断しました。

出典:https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/back-pain/symptoms-causes/syc-20369906
腰を触らずに腰痛にアプローチする
実際の施術では、腰には直接触れず、股関節と腹部を中心に手技療法を行いました。
股関節へのアプローチでは、周囲の筋肉をほぐしながら、関節が本来動けるはずの方向へそっと誘導していきました。長期間ベッドで過ごされていたため、股関節周囲の筋肉は相当硬くなっていましたが、手技を重ねるごとに少しずつ動きが出てきました。施術前と比べると、可動域が明らかに改善しました。
股関節の動きが出てきたことで、膝を曲げたときの腰の痛みも和らぎました。これはとても重要なことで、腰痛の原因が必ずしも腰そのものにあるわけではないということを示しています。股関節が硬いと、その動きを補うために腰に過剰な負担がかかります。股関節を緩めることで、腰への負担が減り、痛みが軽減されるのです。
腹部へのアプローチでは、最初は触れるだけで痛みがあった状態から始めました。ごく軽い圧でゆっくりと腹部に触れながら、少しずつ緊張を緩めていきます。すると徐々に硬さが取れ、腹部が柔らかくなってきました。
腹部が緩んでくると、腸の動きが手で感じ取れるほどになりました。腸が動いているのを感じるのは、腹部の緊張が取れてきた証拠です。患者様自身も「お腹が温かくなってきた気がする」とおっしゃっていました。

出典:https://www.clevelandclinic.org/health/diseases/8619-back-strain-and-sprain
お灸が腹部の冷えに効いた理由
腹部を触ったときに、冷えがあることも気になりました。
冷えている部位は血流が悪くなっており、組織への栄養供給が滞っています。腹部が冷えると内臓の働きも低下し、それが腰や背中の筋肉の緊張につながることがあります。
そこでお灸を使いました。お灸の熱刺激は皮膚の表面だけでなく、深部にまで届きます。腹部にお灸を据えることで、内側から温めて血流を改善し、冷えによる組織の硬さを緩めていきます。
施術後、腹部の冷えが和らぎ、患者様も「お腹の中が温かくなった感じがする」とおっしゃっていました。手技療法でほぐしたうえにお灸で温めることで、腹部全体が柔らかく動きやすい状態になりました。
腰に一切触れていないのに、腰の痛みが楽になった。患者様ご本人が一番驚かれていました。「お腹やお尻のあたりを触られただけなのに、腰が楽になるんですね」というその言葉が印象的でした。

出典:https://www.hopkinsmedicine.org/health/conditions-and-diseases/back-pain/lower-back-pain
慢性腰痛と内臓の関係
今回のケースを通じて、改めて「慢性腰痛と内臓の関係」について考えさせられました。
勉強会で「慢性腰痛は内臓からきていることが多い」と学んだことがあります。この患者様は肝臓癌の既往歴があるため、すべての原因が内臓にあるとは言い切れません。ただ、腹部や横隔膜を整えることで腰の痛みが明らかに改善したことは事実です。
内臓と腰の筋肉は、筋膜という組織でつながっています。内臓周囲の組織が硬くなると、その緊張が筋膜を通じて腰の筋肉に伝わり、腰痛として現れることがあります。逆に内臓周囲を緩めることで、腰の筋肉の緊張が取れることもあります。
「腰が痛いから腰を触る」という発想だけでは見えてこないアプローチが、この症例には必要でした。体をパーツとして見るのではなく、全体としてつながったものとして見ることが、慢性腰痛の改善においてとても重要だということを改めて感じた症例です。
特に長期間にわたって症状が続いている慢性腰痛の場合、原因が腰以外の場所に隠れていることが少なくありません。股関節・腹部・横隔膜・内臓周囲。こういった「腰の周辺」を丁寧に評価することが、改善への近道になることがあります。

出典:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK22939/
横隔膜を意識した呼吸が慢性腰痛の予防になる
最後に、ご自宅でできるセルフケアをお伝えします。
今回の症例でも重要だった横隔膜。これは呼吸のたびに動く筋肉で、胸とお腹の間、肋骨の下あたりにあります。この横隔膜をうまく使えているかどうかが、腹部や腰の状態に大きく影響します。
多くの方は日常的に浅い呼吸をしています。特に長時間同じ姿勢でいたり、ストレスが多かったりすると、呼吸は自然と浅くなります。浅い呼吸が続くと横隔膜が十分に動かなくなり、腹部の筋肉が硬くなっていきます。これが慢性腰痛のリスクを高める一因になります。
おすすめのセルフケアは、横隔膜を意識しながらゆっくり深く呼吸することです。鼻からゆっくり息を吸って、お腹が膨らむのを感じてください。次にゆっくり口から吐きながら、お腹がしぼんでいくのを感じます。これを繰り返すだけで、横隔膜が動き、腹部の緊張が緩んでいきます。
「横隔膜を意識しながら呼吸するって、どうすればいいの?」という方も多いと思います。言葉だけでは伝わりにくい部分もあるので、気になる方はスタッフに気軽に声をかけてください。実際に体に触れながら説明することで、感覚がつかみやすくなります。
慢性的な腰痛は、腰だけを見ていても改善しないことがあります。体全体のつながりを意識したアプローチと、日常の呼吸というシンプルなセルフケアの組み合わせが、長年の痛みを変えるきっかけになることがあります。気になる症状があれば、ぜひ一度ご相談ください。
山田でした。
